エル・ソルト

16/17
前へ
/453ページ
次へ
「……父上、すごく怒ってましたね。」 「っ……!」 エルが執務室から出て戸を閉めると、直ぐに声をかけられた。エルは驚き、思わずビクッと肩が跳ねてしまう。 「な、なんだいアルじゃないか。お、おどかすな!」 エルに声をかけたのは、エルより二つ年下の弟であるアルだった。たいそうつまらなそうな目でエルを見ている。 「相変わらず愚行ばかり繰り返していますね。特に今回は父上もかなりお怒りのようだ。やはり、この家の後継ぎは僕の方が良いのではないですか?」 「な、何を言っている!後継ぎは僕に決まっている!そもそも僕は何も悪いことはしていない!あいつが悪いんだ!」 エルは弟の言葉を否定し、罪は全て対戦相手のイリスに有るという。 その様子を見た弟のアルは、エルを鼻で笑った。 「悪いことをしたから怒られるのでしょう?まさか、尊敬する父上を否定しているのですか?ますますあなたの考えることが分からなくなりました。」 エルはアルの言葉に怒りが沸々と沸いてくる。しかし何も言い返す事ができなくて、肩を震わせることしか出来なかった。 「き、貴様……!兄を敬おうとは思わないのか……!」 「自分に劣る兄を何故尊敬しなくてはならないのです?馬鹿ですか?」 「く、くそっ……!」 エルは何とか反論しようとするものの、浮かぶ言葉はどれも弟に通用しなさそうなものばかり。こうなれば、することは一つしかなかった。 「……部屋に戻る!」 エルは弟のアルに背を向け、逃げるように早足で歩き出す。 「そうですか、さようなら。」 後ろから投げかけられる、遠回しに『もう二度と会いたくない』という言葉に悔しさを覚えながら、エルは部屋へと歩いて行った。 「兄さん…いつまでこんなことを繰り返すのですか……」 その後に投げかけられた、弟の寂しそうな声を聞くこともなく。
/453ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30840人が本棚に入れています
本棚に追加