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さらに時は進み、すっかり夜が更けようとしていた。時刻はあと少しでエルの生まれた時間を迎えそうだ。
エルはあれから自室のベッドに潜り込み、一人でずっと泣いていた。
(何故だ…!何でなんだ!どうして僕がこんなにも責められなければならない…!)
泣きながら思う、現実とエルの思う価値観の相違。それは普通なら誰でもわかるはずなのに、歪み切ったエルには到底理解できるものではなかった。
(僕は貴族だぞ!偉大な五大貴族の名家、ソルト家の長男だぞ!!)
父だけでなく、弟からも馬鹿にされる日々。いつも自分を何処かでフォローしたくれた母も、今回ばかりはエルを見放した。
(僕は悪くない!僕は何にも悪くないんだ!)
エルはそう心の中でそう叫ぶ。誤った自己暗示を自分にかけようとするも、溢れる涙は何故か止まろうとしなかった。
そして、まもなく時刻はエルの生まれた時間を指そうとしていた。止まることの無い針は無感情に進み続けるだけ。
そんな時だ。
「僕は悪くない、僕は悪くな───がッ!?」
時計は丁度良い時間を指したわけではない。しかし、何故かはっきりとした針の進む機械音がエルの頭に響いた。
「ぐあッ!?」
突如、エルが悲鳴を上げ、ベッドの上で身を捩らせた。いったいどうしたというのだろうか。
「い、痛いッ!何が起こってる!頭が割れそうだぁ……!」
余りにも酷い頭痛に、エルは大きな声が出せない。それに視界も霞み始めた。
「ッ……!ぐああああああああッ!!!?」
すると、今度は突然全身の痛みがエルを襲いだした。まともに言葉を吐くことが出来ず、エルはしゃがれた声で叫ぶことしか出来ない。
「───ぁぁぁぁぁ……………」
やがて、エルの唸り声は徐々に小さくなって行き、ほとんど聞こえなくなってしまった。
「………」
体がピクリとも動かなくなる。まるで息絶えたかのようだ。
すると、
「くっ……」
エルは痛みに堪えるかのように頭を押さえ、顔をしかめながら意識を取り戻した。
そして、黙ったままゆっくりと上体を起こす。
「………」
開いた目は下を向き、ベッドの生地を見つめている。どこか不機嫌そうな顔を浮かべている。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「……やってくれたな、エル・ソルト。」
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