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「君!大丈夫だったか」
「は、はあ……何とか大丈夫でした。」
直ぐに大工が駆け付け、青年の安否を確認する。それに対し、青年は仰向けで地面に肘を突いた状態で返事をした。
「そうかそれはよかった!すまないね!じゃ、気を付けてな!」
「え……」
青年の言葉を、大工は軽い謝罪で返し、手を貸すこともなく仕事場に戻って行った。青年は思わず呆然とする。
「つ、ついてない……」
青年は運の悪さに、朝の正座占いの結果を頭によぎらせた。しかし、今は悪運にも助かった事実を噛み締め気を取り直すことにした。
青年は交差点に差し掛かる。信号は青だ。
辺りはいつも通りの景色だ。平和な事この上無い。
先程の不運の事もすっかり忘れて、青年は安心しきった顔で横断歩道を渡り始める。
しかし、そこで彼はまたもや心臓が止まるような体験をする事になる。
「んー…………ん?」
左から徐々に近付くエンジン音。やがては自分の手前で停車するのだろうと予測するが、聞こえてくる音の勢いは一向に衰えない。
嫌な予感がし、左を向くと、
「なッ……!?うわッ!?」
青年の直ぐ目の前をスポーツカーが猛スピードで横切って行った。信号を無視したのだ。
青年は驚いて尻餅を突いてしまった。
「な、何なんだよ全く!」
居ない相手に怒っても仕方ない。青年は立ち上がり、自分の不運さに苛立ちながらもバイト先への足を進めた。
今度はいつも上る階段に差し掛かる。流石に立て続けの不運に見舞われたせいか、青年は落ち込んだ様子で重そうに足を運んでいた。
「はぁ………」
ため息をつき、やる気無さげに一段一段を踏み締めて行く。
アルバイトの前とはそういうものだ。勤務時間になれば気分も元に戻るだろう。青年はそんな気持ちを自身に思い込ませた。
そんな時だ。
『きゃあああああッ!!誰か止めてー!!』
「こ、今度はなんだ!?」
突如上から鳴り響く女性の悲鳴。青年は悪態をつきながらもそちらを見る。
「なあッ!?」
なんと、階段の上から一台のベビーカーがガタガタと滑り落ちて来ているのだ。上手くバランスを取りながら、一直線に青年の元に向かっている。
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