成金の精進!!

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「おい、父上からお──僕の世話をするなと言われなかったか?今日からこの屋敷の中で一人で生活するように言われているんだ。」 「そ、それは……申し付けられましたが……」 危なかった……昨日まで俺の一人称は“僕”だったから、ここで“俺”と言ってしまえば変な目で見られるに違いない。 しかし……どちらかと言えば前世の一人称の方がしっくりくる。どこかで呼び方を“俺”に変えたいものだ。 メイドは俺の説明を聞くと、小さな声で返事をして俯いた。 「……何か事情でもあるのか?」 「……」 「……?」 俺がそう言うと、メイドさんは俯きながらも俺の方をチラチラと見上げて来た。いったい何だと言うのだろうか。 む………そうか。俺に逆らえば怒られると思っているのか。 「なあ───」 怒りはしない。そう話しかけようとして、一旦止める。違和感を感じてしまったからだ。その原因は直ぐに理解できた。 俺は……このメイドさんの名前を知らない。もう何年も世話をしてくれていたはずなのに。 どうやら俺の差別的な態度は本物だったらしい。興味の無いものはたとえ長年の付き合いが有ったとしても記憶しないようにしていたらしい。 申し訳ないが、このメイドさんにはここで何度目になるかもわからない名前の紹介をしてもらおう。 「君の名前……もう一度教えてくれないかな。」 「は、はい!?わ、私はマリーと申しますっ!」 メイド……もといマリーは、何故今さらそんなことを聞くのかと言いたげな顔をして名前を教えてくれた。それはそうだろう。もう何年もの間俺の世話をしているのだから。 ……絶対に忘れることの無いようにしよう。 「そうか。マリー、父上が言った通り、僕の世話はもうしなくていい。特に罰を与える事もない。だから安心してくれて構わない。」 「い、いえっ……ですが……」 それに、マリーにはしばらく楽になってもらいたい。こんな俺の世話を今までしていたなんて、余程のストレスが溜まっていることだろう。 後は……そうだな…… 「マリー。」 「は、はい……何でしょう?」 “謝罪”をしなければならないか。何故だかこの言葉とはこれから長い付き合いをする事になりそうだ。悪い事は悪いと認め、きちんと清算しなければならない。
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