成金の精進!!

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場の空気に気まずさを感じ、俺は厨房へと急いだ。どの道朝食にあり着くにはここに来るしか無かったのだ。 近くにいるシェフを捕まえ、声をかける。 「すまないが、この辺りを使わせてもらえないか?」 「エ、エル様!?」 貫禄を窺える熟年のシェフはベテランのように思えた。だが、俺が声を掛けると目を見開いて狼狽え始めた。 「あ、あの……旦那様からエル様の料理を作らないように命じられたのですが……って、髪が!?」 また髪か。 当分の間はこの事で驚かれそうだ。覚悟をしておこう。 「ああ、そうだ。自分で作ることになった。」 「な、何ですって!?」 驚くのも無理はない。温室育ちのおぼっちゃんが自分で料理とは何事かと思うだろう。 それにしても、だ。いちいち驚かれて対応すると時間を奪われそうだ。手早く進めていこう。 いや、だが朝食か……何を作ろう、食パンがあるからフレンチトーストが作れるか。この世界には無い料理だし、力を入れたい。 「お、畏れながら!エル様は料理が出来るのですか!?」 料理長が酷く狼狽えている。どうやら俺は逃れられないようだ。 「昨日父上に自足生活を言い渡されてからやり方を調べた。」 「は、はぁ……そうですか。」 本当は前世で一人暮らしをしていた経験に頼るつもりだ。今まで貴族生活を送っていた俺を心配する気持ちもわからなくはない。 「心配なら見ていてくれて構わない。何せ実践したことないからな。」 本当に。地球とは料理器具の種類も構造も違っている。取り合えずやってみるしかない。 俺は近くの冷蔵庫からミルクと卵を取り出し、砂糖を用意した。 「これらは……何を作るのですかな?」 「フレンチトーストと呼ばれる料理だ。卵を解いてから砂糖とミルクを加え、食パンに染み込ませる。その次にバターを溶かしたフライパンの上にそれを乗せ、馴染ませるんだ。」 「ほ、ほう……聞いたことの無い料理ですな。拝見させてもらっても良いですか?」 ……何処で知ったか聞かれると困るな。まあ、その時は誤魔化すしかないだろう。 「ああ、構わない。」 とても簡単な料理だ。別にこの世界に酷く影響与える程のものでもあるまい。 俺は料理長の目を気にしながらも調理を進めていった。
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