成金の精進!!

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「いただきます。」 俺は出来上がった料理をいかにも高級感なお盆(そんなのしか無かった)に乗せ、食堂のテーブルの自分の席まで運んだ。 食堂には既に俺以外誰も居なかった。皆はもう食べ終わって何処かに行ってしまったようだ。 そう思いながら出来た料理を口へと運ぶ。予想通りの味が広がり、自分で満悦の表情を浮かべた。 「あら、エル。朝食は……」 俺が一人で朝食の味を満喫していると、食堂に母上が入って来た。手持ち無沙汰なところを見ると、心配で俺の様子を見に来てくれたようだ。 「自分で作りましたよ。ちなみにこれはフレンチトーストって言う料理です。」 「えっ……!エルが作ったの!?作れたの!?」 「え、あ、はい。」 失礼な!と叱咤したいところだが、わがままな俺しか知らないからそう思うのも仕方ない。 「はい。厨房の料理人に教えてもらいました。」 「美味しそうね。一つ頂いても良い?」 母上は俺の手元の皿を見て興味深そうな目をしている。断る理由も無いので、フォークで一切れ刺して差し出した。 「どうぞ。」 「あら、ありがとね。」 母上は嬉しそうに口を寄せ、パクッと一口で咥えた。とても美味しそうに食べてくれている。 本当に、この人は優しい。 ……さて、今日は神様からもらった能力の確認をしたいな。屋敷には確か修練場があった筈だ。あまり使ったことは無いはずだが、出入り自由だったはずだ。 「母上、僕は今日色々と予定を立てております。失礼ながら、お先に失礼しても宜しいですか?」 「え、ええ……じゃあこの……フレン……美味しくいただくわ。」 どうやら名前を覚えてはくれなかったようだ。語呂は良いんだから一回で覚えられるとは思うが。 俺は母上に心の中でツッコみ、席から立ち上がった。 「~~♪」 「あの………」 母上は既に話を聞いていない。手元の料理に夢中になっているようだ。 仕方ない、このまま退出させて貰おう。 「美味しいわ……エル……」 「!」 向けていた背を翻す事は出来なかった。鼻をすすりながらこぼれた声の意図を確かめる勇気は今の俺には無い。 俺はただ立ち去ることしか出来なかった。
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