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「っ………?」
衝撃に備えぎゅっと目を瞑るアルだったが、なかなかそれはやって来ない。
まさか、本当に死ぬ間際だからこんなに遅いのだろうか?
走馬灯は起こらない。あれは所詮伝説だったのか。
そんな考えがアルの頭を占めた。
「おいアル!しっかりしろ!」
「ぇ……」
自分とは違う誰かに声に思考は現実に戻される。
そしてアルは、誰かに背中を支えられていることに気付いた。
「なっ…!?」
アルはそれが誰かを理解した。自分の背中を支えているのはエル・ソルト。
紛れもない、自分の兄だ。
アルは直ぐにその手を振り払い、態勢を立て直そうとする。
「…ぁ……」
しかし意識は朦朧とし、体に力は入らない。
アルは再びエルに支えられることとなり、医務室へと運ばれて行った。
「ん……」
「目覚めたか。」
医務室。アルがベッドで寝ている傍ら、そこではエルが看病していた。
「何の用です…?」
「……」
エルは答えない。何かを躊躇っているようだとアルは感じた。
「授業は…?」
「もう始まったよ。俺は休ませてもらった。」
「余計なお世話と言うのに…」
アルはあえて憎まれ口を叩く。エルザに対しては無意識のうちにやったことだが、エルに対しては故意にやっていた。
「どうして…あんな練習をする。」
「貴方には関係ない。」
「大有りだ。」
「は?」
エルの切り返しが予想外で、アルは疑問の声を上げる。いったい何が関係あるというのだろうか。
「アルお前、最近上級生と戦ったんじゃないのか?それも上流貴族と。」
「!?……なぜそれを………」
「中流、上流貴族が雷の貴族を敵視しているのは知っているはずだ。行動的な奴らが何もしないはずがない。
それに、そのための無茶な練習だろ?」
「っ……」
エルの鋭い指摘にアルは顔をしかめた。エルザ以外にこの事を知る人間を作らないようにしようと心掛けていたからだ。
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