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(寝息が全く聞こえないな…)
死んでいるのではないかと思ったが、腹部が上下していることから普通に寝ていることがわかる。
(無茶するからだよ馬鹿野郎。)
生意気な弟に向けてため息を一つ。
幸せが逃げるとは思ったが、命を狙われている時点で既に幸せとは言い難いのでエルに遠慮は無かった。
「一人だと、いつか壊れる…」
話を聞く人間が居るわけでもない。それでもエルは弟に言い聞かせるように言葉を紡いだ。
「長い時間溜め込んだそれは、きっと俺よりも、狂おしいほどに過酷なものとして突然襲ってくる。」
アルの心は強い。エルはそう思っている。
何故ならたった数ヶ月で壊れ、逃げ道を探したエルに対し、アルは何年も耐え続けているからだ。
「お前はもう、限界のはずだ。」
誰かに自分を隠せなくなったとき。それが限界だ。
追い詰められた心は、誰かに助けを求めることさえも見失ってしまう。
「お前を、俺の二の舞にするつもりはない。」
エルはその言葉を最後に部屋を出て行った。部屋の中は数分前と同様に静まり返る。
「……」
そんな中、ベッドに横たわっていた少年はゆっくりと背を起こした。
「…どういう意味だ……? 」
下手に追い払うよりは、さっさと夕食だけ置いて立ち去らせる方が手っ取り早いと思い、アルは寝たふりをしていた。
「………僕は僕だ。」
アルはまるでエルに言い返すように言葉を発した。
「誰の力も要らない…」
そして、ゆっくりと御盆の置かれた机へと向かった。
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