成金の精進!!

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自室へ戻った。 何だかんだで修練場での時間を楽しく感じていたのか、思った以上の時間を過ごしていたようだ。 時刻は既に正午を過ぎている。今まで気にしていなかったが、この世界も太陽暦で時間を進めているようだ。地球との共通点が有ると嬉しいものだ。 「さて………」 休むために部屋に戻って来たわけではない。その理由は無駄に大きな本棚に隠されている。 ────学園の始まる時期がやって来たのだ。 この休暇が開ければ忙しくなるだろう、今の内に準備しておこうと思っていたのだ。 「………これは。」 数分後の事だ。俺は今、貧弱な両腕を小鹿の震わせている。 新学期に使用する教材が酷く重かったからだ。 いやいや待て、何故こんなに教科書が多いんだ。今までは此処まで苦労はしていなかったはず……。 「…………! そうか。」 記憶を辿ると、直ぐに思い出す事ができた。 俺は今までこの全てをマリーに運ばせていたんだ。 いや、それでも屋敷から学園は馬車……学園門からはどうしていたか……。 ああそうだ、俺がいつも権力にものを言わせて引き連れていた生徒達に持たせていた。 「………」 何故だろう、いや、理由は明らかだが、急に強い罪悪感が湧いてきた。特に女性にわざわざ重い荷物を持たせた過去は貴族に生まれた王国男子として黒歴史に値するだろう。 何か……何か償いと感謝を込めて返せるものはないだろうか。 「………よし。」 今の俺にできる事は限られている。その範囲内においてできる事────思い付いたのは料理だ。何か美味しいものでも作ろうじゃないか。これならマリーを満足させられる自信がある。 思い立ったが吉日だ。早速食堂の厨房へ向かおう。 再び食堂へと赴いた。両開きの扉を開けると、中では母上とアルが席に着いていた。一目見た感じではあまり会話は弾んでいない様だった。 「あらエル。お昼を食べに来たの?」 「あ、いえ……」 「いえって……食べなくて大丈夫なの?」 「後で戴くので心配は要りませんよ。」 「そう………」 気に掛けて来た母上にそう言葉を返すと、少しだが寂しそうな顔を返された。やはり、この様に丁寧口調を交わす家庭は異常なものか。 ………それよりも、だ。アルめ、演習場から戻るのが早過ぎるだろう。俺を追い出すくらいならもっと練習して行け。 ちくしょうめ。
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