成金の精進!!

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「この機会を利用して、これからのために料理のレパートリーを増やそうかと思いまして。今ひとつ作り方を覚えて来たので試してみようかと。」 地球では一大学生として長らく独り暮らしをしていた。お菓子の一つや二つ、作れないことはないさ。 「そう……あの人は本当にエルに全てやらせるつもりなのね……」 「母上、朝も言いましたが、気になさらないでください。これは僕の愚かさによって招来した結果です。」 心配してくれるのが逆に痛く感じる。こうは言ったが、母親に向かって心配するなと言うのは無駄に尽きるものだろう。 どうすれば良いものか。 「そう……エルが頑張る気になっているのなら口出しはしないわ。頑張ってね。」 「はい、母上。」 「───ひとつ良いですか。」 口を挟んで来たアルに顔を向ける。さっきの出来事のせいか、あまり良い顔は出来なかった。これでも兄として弟を大切には想っているのだが、上手くいかないようだ。 「………何だ?」 「母上には一人称を変えないのですか?」 「………あ。」 忘れていた。アルには例の口調がバレていたんだった。 丁寧口調で話していたから自然と“僕”と言ってしまった。これは前世のアルバイト経験がものを言わせたな。 「……? どういうこと?アル。」 「気持ちを切り替えるために一人称を変えるんだと、先ほど。自らの事を“俺”などと呼んでいて……今さら何をしようと変われるわけがないのに。」 「お、おい……余計な事を………」 アルめ……今に見ていろ。せいぜい幼い頃のように慕われる兄貴になってやるさ。生意気な口を叩けるのも今の内と思っているんだな。ハハハハッ! ………何故をそれを口に出せない俺っ……。 「へぇ、それは新鮮ね。いつかその男らしいエルを見てみたいわ。きっとウルに似てるもの。」 「えっ……あ、はい……まあ、頑張ってみます。」 妙に小っ恥ずかしくなってしまった。駄目だ、前世の俺の記憶がまだエル・ソルトとしての母親に慣れていない。まるで年上の夫人を相手にしているようだ。 顔に上がってくる血流を悟られないうちに、俺はそそくさと厨房へと向かった。
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