成金の精進!!

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厨房にて。先ほどと同じシェフを捕まえた。どうやら先ほどより多くの料理人が居るようだが……もしかして場所は空いてないのだろうか。 「今度はお菓子を作ろうと思うんだ。どこか空いている場所はないか?」 「それでしたら左奥の場所が相手おります。どうかお怪我のなさらないように……」 「ああ、助かる。」 良かった、どうやら空いていたようだ。 作るものは頭の中でずっと考えていた。この世界でも広く知られているように、クッキーを作る事にした。 「……よし、作るか。」 俺は使えそうな調理道具を並べ、クッキー作りに取りかかった。 よし、できた! まあまあの出来だろう。生地の型取りは道具が無いため、物質変化で一本のスプーンを針金へと変えさせてもらった。 一つ良い感じなのを口に放り込んで見る。よし、焼き立てということもあって香ばしさがある。もしかすると、地球の知識があれば俺は料理でも生きていけるのではなかろうか。 クッキーも出来たことだ、さっそく母上やマリーのところに持って行くとしよう。 食堂に戻ると、昼食を終えた母上が花瓶の水の入れ替えをしていた。本来は侍女の仕事のはずだが、どうやら趣味として自らが進んでしているようだった。 「母上。」 「あら、できたの?何を作ったの?」 すでに母上は俺の手元を見ていた。もしかしてさっき顔を合わせていた時から気になっていたのだろうか。 「クッキーを作りました。これは母上への感謝の気持ちです。どうか受け取ってください。」 「本当……?嬉しいわ、後で紅茶と一緒にいただくわね。」 「お口に合えば嬉しいです。それでは、俺はマリーのところへ行きますので。」 「ふふ……みんなのエルに対する印象が変わってくれれば私も嬉しいわ。頑張ってね。」 「は、はい!」 だ、駄目だ恥ずかしい。他所の家の母親と接している部分が俺の中にある。これは慣れて行くしかないだろう。 「………」 しかし……思い返せば母上はいつも俺を応援してくれていた。それをずっと無下にしていたとは、尋常ならざる親不孝者だ。反抗期にしては性が悪すぎる。 俺はクッキーの袋を優しい目で眺めている母上の眩しさに目を逸らし、逃げる様に食堂を出ていった。
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