王立スローラル学園

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「マリー、君は少し休むと良い。俺には父上の言いつけを守らなければならない。背くわけにはいかないんだ。」 「は、はい……」 「あー…………その、マリー、クッキーはどうだった。」 オーケー、話題転換だ。落ち込む顔など(記憶上)ドジで天然なマリーには似合わない。丁度感想も聞きたかったところだ。 どきどき……。 「はい!美味しくいただきました!エル様から頂いただけでも生きた心地がしませんでしたが!ありがとうございました!」 成る程、正直だ。知れば知るほど俺の知るマリーの頭のネジがみるみる緩み始めている。このままでは分解の一途だな。 「それは失礼だぞ……まあ、美味かったと言ってくれたのは嬉しいが。」 どこか抜けている。恐らくこれがマリーなのだ。本来ならとうの昔に知っていたこと。 いつから俺ことエル・ソルトは不義理な人間の道を歩き始めたのだろう。 「そういえば……どうしてこんなにも早く起きているのでしょうか?」 「ああそれは……俺、通学は徒歩になっただろう?」 「え?」 「いや、だから……自分のことは自分でするのだから、通学は徒歩になるだろう?」 「え……旦那様は………そこまで…………」 「そうでなければ父上が嘘を言った事になる。むしろそうでなくでもらっては困るかもしれないな。」 ほんと困る。今さら馬車くらいなら出してやるとか言わないで。せっかく早起きしたんだから。 ええい。 「今日の俺は早く学園に行かなければならないんだ。俺はもう出るぞ。」 「え!?も、もうですか!?なら馬車を……」 「要らない。学園まで馬車を往復をさせればアルが遅刻してしまう。今日は歩くとする。」 「そ、そうですか…………あの」 「……?」 俺の様子を窺うように接するマリーに僅かながら煩わしさを感じていた。少し冷たく言葉を返すようにしてしまっていたら、マリーの語調が震え始めている事に気付いた。 ………いや、ちょっと待ってくれ。 「ど、どうした?」 「いえ……その、ご立派になられて……うっ。」 「いやいや極端過ぎる────おい!泣かないでくれ頼むから!」 ありがちな気遣いで泣かれてしまった。これはマリーが涙脆いだけなのか、それとも今までの俺が酷い有り様だっただけなのか。
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