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「エル……」
「全く……サヤ、いつまでも騒ぐんじゃない。見苦しいぞ。」
「っ……ウルはエルの事が心配じゃないの!?」
「ふん、些細なものだ。」
ウルが食事を終えて席を立ち上がると、侍女の一人が食器を下げに来た。エルだって罰を完璧に守っているわけではないと高を括り、ウルは侍女に尋ねた。
「例えばこの食器。エルはあの様な奴だ、きっと侍女を呼び出して片付けさせたのではないか?」
さらに言うならば食事そのものも実は作ってもらっているのではないか。ウルはそう疑っていた。
「と、とんでもありません……エル様は御自分で片付け、更に皿洗いまで御自分でなされたとシェフの方が……」
「なに……」
「ほら!エルは変わろうとしているわ!」
「くっ……。し、心配していない訳ではない。ただ、あいつは自分を管理することがなっておらん。努力が必要だ。」
「そ、それはそうだけど…………」
ぶつぶつと呟くサヤをウルは見ていられなくなった。彼女は過剰に心配性なところがある。だから今までもエルを叱るに叱れなかったのだろう。
ウルは足早に食堂を出ると、執務室へと足を進めた。
「……」
私は食堂から執務室へと足を進める。
「全く……幾ら何でも甘過ぎないか……」
溜め息も辞さず、頭の中のスイッチを仕事に切り替える。今日の予定を考えながら廊下を歩いていると、角の先から侍女の声が聞こえて来た。
『嘘!?エル様が!?そんなわけないでしょ!?』
「………」
大きな声だ。しかしその内容に気になる言葉が入っていた。騒々しいと思いながらもウルはそちらへと近付く。
「どうしたのだ。騒々しいぞ。」
「だだだ旦那様!?お、おはようございます!」
「む……」
元気があるのは良い事だ。しかしもう少し声量を下げられないものだろうか。
「……エルがどうした?」
「その……エル様が私にクッキーを作ってくださいまして……」
「エルが食材の調理を?そんなことあるはずがなかろう。」
まさか本当に料理ができるはずがあるまい、と驚きながら有り得ないと返すと、その侍女が懐からクッキーの入った袋を取り出した。
「それは…….冗談だろう?」
「嘘じゃないですよぅ!」
「何だと……どうなっている。」
やはりウルにはどうもエルの変化を信じる事は出来なかった。むしろ、何か息子に異常を来してしまったのではないかと不安になった。
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