王立スローラル学園

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ウルは悩みを打ち明ける。息子の問題だ。夫婦で考えるのは当然と考え、胸の内を詳らか伝えた。 「ううん、ウルは間違った事をしていないと思う。少し厳しいんじゃないかと思ったけれど、あくまで指導の範疇だったと思うわ。」 「じゃあ、何なのだ……この、心を覆い続ける濃霧の様なものは。」 ウルの心は晴れなかった。ずっと曇っている。しかしエルの降格に幻滅したわけでもない。 「そう……ウルも感じているのね。私は嬉しいわ。」 「どういうことだ?」 「これ……エルに貰ったのよ。」 サヤはそう言いながら一つの袋を取り出した。封のリボンを外すと、その中から一つのクッキーをウルへと手渡した。 「これは……」 「エルが私に作ってくれたクッキー、とても美味しいのよ。」 マリーが持っていた包装と同じものである。ウルはサヤから手渡されたそれを口の中に放り込み、ゆっくりと咀嚼した。 「……美味い。」 たった一枚のクッキーを何度も咀嚼する。何度も、何度も。 「私はね、あの我が儘なエルが自立するのは少し寂しいかな。」 「………」 「気が付けばエルは十八歳。本当にあの子が自立する日はもう本当に近いと思うの。」 「っ……」 ふと、ウルはまだエルに祝いの言葉をかけていないことに気付いた。もしかして気にしているのではないかと、胸を僅かに痛める。 「だから、私はせめて今の間だけでもエルを支えたい。自立する日まで。だからウル……エルの罰を解かない?マリーだって昨日から寂しそうにしていたわ。」 「………」 ウルは考える。 周囲の人間は自分よりも遥かにエルの成長を感じているようであった。ウルはいつからか息子を嫌悪する様になり、目を逸らすようになっていたのかもしれない。 意思を固める。 「わかった……解こう。」 「本当!?良かった!これでまた家族で食事ができるわね!」 ウルが承諾の返事を返すと、サヤは子供のように跳びはねて喜び始めた。苦笑いをこぼしつつ、ウルは埃立つ室内に顔を顰める。 「こら、落ち着───」 「早速マリーや料理長にこの事を知らせてくるわ!じゃあウル!お仕事頑張ってね!」 「おい!………ハァ。」 これで良かったのか。それはまだウル自身よく分かっていない。しかし、家族は共に過ごした方が良いとウルは思い始めていた。 伝う涙に気付いたのは、それから暫くの事だった。
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