王立スローラル学園

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「私は……どうやらお前から目を背けていたらし い……」 「………どういう意味でしょう。」 「お前のする事はいつも愚かな行為だ。私はきっとそんなお前に愛想を尽かし、見放してしまったのだと思う。」 「………」 分かっていた。父上が何故あの様な罰を俺に下したのか。それでもこうしてはっきり言葉にされると辛いものだ。 「───だが、それは父親として決してしてはならない事だった。」 「いえ、そんな……父上が気負う必要など───」 「違う、お前はまだ成人していない未熟者だ。未熟者が間違いを犯したところでそれはその者だけの責任しゃない。親である私が正さなければならない事だったのだ。」 「………」 罪悪感に苛まれているのだろうか。これ以上の言葉は余計に事態をややこしくすると踏み、俺は口を閉ざした。 「口調を、変えたんだな……」 「え……」 「髪を切ったんだな………本当に全部、自分一人でやり切ったんだな………」 「そんな……」 立ち上がり、俺の頬に触れる父の手を拒む事は出来なかった。あまりに幼いわけでもなく、身長も同じくらいなので歯痒さを感じてしまう。 「父上、この僅かな二日間、得られたものは全て俺の血肉となりました。それは父上が俺にあの様な指導を施し、今こうして本音をぶつけてくれているからだと思っています。 ですから、父上が謝る必要はありませんよ。」 「む……そうか……。」 父上は俺の頬から手を離すと、再びゆっくりと執務椅子に腰を下ろした。 不意にその上の壁に掛かっている時計が目に入る。気が付けばもう23時だ。これ以上の長居は明日に響くだろう。 「父上、俺はそろそろ失礼致します。」 「ああ……また明日な。」 囁く様な声が身を翻した俺の背中を撫でた。懐かしい暖かみだ。 取っ手に手を掛けようとすると、待てと一言こぼす。 「……何でしょう、父上。」 「いや、その、何だ。」 別に焦る様子も無く、父上はただ言葉を選ぶ様に目を泳がせていた。 諦めたような顔をした後に咳払いをすると、たった一言、ポツリとこう告げた。 「誕生日、おめでとう。」 驚き、思わず目を見開いてしまう。いえ、と返すと今度は俺の方が逃げる様に退室した。 目の奥が熱い理由は俺には分からない。 ただ一つ、分かるとしたら。 これは間違い無く、“エル・ソルト”の激情だ。
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