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これで男の子のメールなんだから、なんだかな。
でも彼曰く、女の子のメールはもっと凄いらしい。
その女の子って誰よ。
聞きかけてしまったのを、今も覚えている。
私は教師で。彼は生徒。
気の迷いよ、気の迷い。
私は自分に言い聞かせる。そうでなければ――そう、最近の子は進んでるっていうし、ほら、越えちゃいけない線っていうのを、分かっているかが気になっただけで。
思い出すと今もかるく疼きに似た想いが胸を締め上げて、わたしは軽く唇を噛んだ。
『今の今まで会ってたじゃない』
そっけなくなってしまったメール。
返信はすぐだった。
『二人っきりで』
たった一言。私の心をゆすぶるのには、十分すぎる一言の。
思わず眩暈がしてしまう。
今来たばかりの教室を見上げると、そこに手をグーパーと、広げて閉じて、繰り返している生徒の姿。
馬鹿。
頬が赤くなるのを自覚した。わかってる、大丈夫。
私は自分で言うのもなんだけれど、確かに教師としては若い。
まだ20代で、自分に自信も持てている。恋を捨ててなんかいないし、機会があれば積極的になるつもり。
それでも――高校生という生き物にとっては、射程外。
だって、高校生からしてみれば、社会人なんて生き物は、それだけで年の離れた別の生き物なんだから。
遊ばれているだけなんだ。
だから、私。赤くなってる場合じゃない。
両手を顔の前で合わせて、多分赤くなっている鼻を隠して、言い訳みたいにはぁー、と息を吹きかけて手を暖めた。
本音を言えばそのまま手で顔を覆ってしまいたかったけれど、そんな事をしたら、なんだか負けのような気がして。
負けるなー、負けるなーと自分に念じて、今来た道を引き返す。
あぁもう、今日こそ言ってやる。
大人をからかうな高校セー。大人だって、大人なんか、言うほど心は大人じゃない――!
リノリウムの床をスリッパで鳴らしながら、早足で教室に向かう。
寒くて長い階段を足早に登り、廊下を越えて。
教室の扉に手をかけて、自分の息が軽くだけれど上がっているのに気がついた。
あれ?と思いながら、深呼吸して息を整える。
「いや、面接じゃないんだから」
何やってるんだか、私。一人空しくつっこんで、扉を開けた。
ガラリ。
古い校舎特有の、微かに上下して鳴る扉。
「お、予想より早かった」
「…気のせいよ」
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