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「あ、いや、違うの、ちょっとビックリしたから、そう、ビックリしてちょっと、力が入らなくて、ほら、あるじゃないそういう」
「センセ、さ」
どうしてだろう、早口で言う私の言葉は、言い訳のようになってしまった。
す、と彼の右腕――私を支えるのとは逆の腕が伸びて、壁につく。
そう、いつのまにか背後には壁があって。そうされると、私は逃げることが出来なくて。
冬樹の腕に抱かれながら、こわごわと彼の顔を見上げる。
悪戯っぽい微笑と。
驚くほど真剣な瞳。
「俺のこと、好きだろ」
心臓が、また止まる。顔が熱い。冬なのに。生徒なのに。
「ば、馬鹿いってるんじゃないの。そんな、そんなの――」
必死に足で地面を掻いて、立ち上がろうとしたのだけれど。
背中に壁があるから、彼の腕が私をしっかり掴んでいるから、立ったところで結局逃げたりなんかは出来なくて。
す、と冬樹が体を屈めて、顔を寄せる。
キス、される――そう思って、目を閉じたのに。
一向にその感触は無く。
「ほら、逃げない」
唇が触れる直前で、彼が笑った。
笑うたび、唇に彼の吐息がかかる。
「大人をからかうんじゃ―」そして言葉は続かなかった。
彼の唇が、私の唇を塞いだから。
柔らかな感触。自分という境界線が、溶けて繋がるような感覚。
心臓が鳴る。心臓が鳴る。
鼓動が伝わってしまうくらいに、ドクドク、バクバク、心臓が鳴る。
どうしてだろう、涙さえ溢れてしまって。
彼は、唇を離して。私を抱く腕を強めた。
「本気だよ、俺。だから、逃げないで」
そうして、耳元で囁くのだ。
言葉のたびに、吐息が耳を甘くくすぐる感触に、思わず背筋がビクビク跳ねる。
「信じてくれる?」
そうして、冬樹が悪戯っぽく微笑んだ。
唇が触れそうな、けれど触れないそんな距離で。
あぁ、本当に。この男は、この微笑みは――
「最低よ」
彼の制服を掴んで、ほんの少しだけ背伸びする。
逃げないように捕まえて。
瞼を閉じて、唇を重ねた。
腰に回された彼の腕を感じて、重なった胸に、ドクドクと高鳴る二つの鼓動を感じながら。
嬉し涙が出ちゃうくらいの――自分の気持ちに、気がついた。
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