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結局、新しい染髪料を買いに行くことも出来ず、時刻はあっという間に学校へ行く時間になった。
手早く身支度を済ませると、制服の上に2サイズ程大きいグレーのパーカーを羽織りフードをしっかり被ると、住んで5年になる家を後にした。
――深音には親がいない。
物心付いた時には、親という存在すら知らなかった程だ。
だから、行ってきますを言っても返事の無いこの生活を、寂しいとも何とも感じていない。
パーカーからはみ出た斑の長い髪をなびかせ、高校までの道のりを歩く。
今年3年生である深音は、そろそろ進路を大まかにでも決定することを強いられていた。
実際、早い人では既に進路が決まりはじめており、それは同じ3年生の生徒に確実にプレッシャーとなっている。
深音はその程度のプレッシャーを気にする性格では無いものの、進路がまだ全然決まっていないため、少しばかり焦っているのもまた事実であった。
その奇抜な髪色のせいで何時もより多い視線を感じながら、自分のクラスに足を踏み入れる。
「おはよー」
「あ、深音ちゃん、おはよう! ……って、また今回は盛大に失敗したね~」
深音に挨拶を返したのは、クラスメイトの佐々木萌衣(ササキメイ)。ツーサイドアップにした明るい茶色の髪がチャームポイントの可愛らしい少女である。
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