家畜

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「成る程。躊躇ってしまうと、どうしても一気にやれませんからね。手が震えていたら、酷い結果になるのは自明の理ですし」  そう言って苦笑し、アランは自らの手を肩の位置まで上げる。その掌にはうっすらと汗が浮かんでおり、彼が緊張していることが窺えた。 「ええ。そして、酷い結果を出せば、その後の管理が面倒になる。屑共が苦しむのは構いませんが、化膿でもしたら完治までの時間が増えますからね」  事も無げに言うと、マクシムは気怠るそうに息を吐いた。 「化膿したせいで実験担当者に指示を仰ぐのも面倒ですし、かと言って放置して叱責を受けるのもご免です。ですから、リスクは最小限にしておきたいんですよね」  そう加えると溜め息を吐き、マクシムは軽く目を瞑った。彼は、細く息を吐いてから目を開き、対面に座る者の顔を見つめる。 「どんな仕事であれ、リスクは低い方が良いでしょう? リターンが高かろうと、そのリスクで台無しになれば無駄ですから」  マクシムは、そう伝えると微笑しながらアランの様子を窺った。対するアランは小さく笑い、それから自らの考えを口にする。 「確かに、得る物が無ければ労力は無駄になりますからね。リスクが低い程、気持ちも楽ですし」  そう返すと、アランは口角を上げてみせた。一方、マクシムは満足そうな表情を浮かべ、アランは静かに表情を戻す。  その後も二人の間には会話が有り、仕事を終えたところで研究練を出た。
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