家畜

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「ここです。中を見る心構えは、出来ていますか?」  そう問うと、マクシムはアランの顔を見つめて微笑した。対するアランは近くにある黒いドアを見つめ、少しの間を置いてから言葉を発する。 「あらためて聞かれると不安にはなります。ですが、これも仕事ですからね。もし、出来ていなかったとしても入室しますよ」  そう返すと、アランはマクシムの目を見つめ返した。すると、マクシムは柔らかな笑みを浮かべ、そっとドアノブに手を掛ける。 「では入りましょう」  そう言ってドアを開け、マクシムは部屋の中へと入っていった。アランは、ドアを支えながら彼の後を追い、部屋の中を見まわした。  二人が入った部屋には武骨な棚や椅子が置かれており、その椅子には男が座らされていた。その男は気を失っているのか、力なく顔を下に向けている。  また、男の手首は椅子の肘掛け部分に固定され、足首は椅子の脚に縛り付けられていた。また、椅子にはしっかりとした背もたれがあり、そこから伸びたベルトで男性の腹部は固定されている。その上、胸部はしっかりと縄で縛られており、男が体を動かすことは不可能に思われた。  椅子に座らされた男の背後には、白衣を着た男性の姿が在った。彼は、二人の入室者に気付くとそちらに顔を向け、それから冷たい笑みを浮かべてみせる。
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