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「剃刀程度なら、壊れたとしてどうとでもなります。しかし、外科鋏の先が曲がったり欠けたりすると厄介ですから」
そう言って苦笑し、マクシムは手に乗せた箱を見下ろした。一方、彼の話を聞いたアランは首を傾げ、浮かんだ疑問を口にする。
「落として欠けると言うことは、かなり繊細な器具なのですか? 剃刀がどう言うものかは想像出来ますが、外科鋏とやらはどうにも」
アランは、そう伝えると恥ずかしそうに苦笑する。一方、マクシムは小さく笑い、彼の疑問に答え始めた。
「先の鋭い鋏ですよ。細かい作業も可能ですが、細い部分があるのでデリケートで」
言いながら箱の蓋を開け、マクシムは小さな鋏を取り出した。その鋏の切っ先は鋭く、先端に触れれば怪我をしそうな程であった。
また、指を入れる箇所は円形で小さく、指が一本ずつしか入りそうにない。
「まあ、硬いものを切る訳でもありませんし。こういう形が、一番なのでしょうね」
マクシムは、そう言うと鋏を箱に戻した。
「先端を使えば小さな穴が開けられますし、穴から刃先を差し込めば端で無くとも切り始められます」
その説明を聞いたアランは、何も言うことなく眉根を寄せた。すると、彼の表情に気付いたのか、マクシムは更なる説明を加えていく。
「アランさんは、想像力が豊かな様で。手術と聞くと、メスを想像する方は多く居ます。ですが、良く伸びる皮膚を切開する場合は、この方が良かったりするそうですよ」
そう言うと目を瞑り、マクシムは細く息を吐き出した。
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