尊厳

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「珈琲と紅茶、一応両方持って来ました。どちらを飲まれます?」  そう言うとマグの位置を下げ、マクシムはアランにマグの中身が見える様にした。すると、アランは少しの間考えてから珈琲を選び、マグを持ったまま礼を述べる。 「いえいえ、大して重い物でも無いですし」  そう言って手に持ったままのマグを机上に置き、マクシムは元居た席に腰を下ろした。 「やはり、ショックでしたか? 顔色も優れない様ですし」  そう言って紅茶を口に含み、マクシムは頭を左に傾ける。すると、アランは頭を掻きながら苦笑した。 「はい。押さえるだけとは言え、呻き声も結構なものでしたし……当分は、気持ちが落ち着きそうに無いですね」  そう返すと胸元に手を当て、吐き気をもよおしたかの様に胸をさすった。 「特に、切除したものの気持ち悪さは、暫くは脳裏から離れてくれそうにありません」  アランは、そう加えると深い溜め息を吐いた。一方、それを聞いたマクシムと言えば、意味ありげな笑みを浮かべてみせる。 「生物種が違うとはいえ、あれを食べる地域もありますからね。いっそのこと、食べ物だと思ってみたらどうですか?」  思いもよらぬ話を聞いたアランは咳込み、直ぐに左手で口を覆った。彼は、咳が止まってから手を離し、大きな瞬きをしてからマクシムを見る。
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