尊厳

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「食べ物……ですか? 生臭くて、到底食べられるようには思えませんが」  そう言うと、アランは眉根を寄せて苦笑する。その一方でマクシムは軽く笑い、それから自らの考えを付け加えた。 「食の好みは人それぞれですからね。地域差も当然出ますし。中には、わざと腐らせたり黴させたりする食べ物もある位ですから。それに比べれば、まだ可愛い類ではないでしょうか。まあ、私は食べませんけどね」  そう言って紅茶を飲み、マクシムは話を続けていく。 「何事にも、好みってものは有りますからね。今、私が紅茶を好んで飲んでいる様に」  それを聞いたアランと言えば、先程受け取ったマグを見下ろした。 「言われてみればそうですね。自分が好きだと思っていても、他人からすれば違う。そんな例は、幾らでも有りますから」  言って珈琲を一口飲み、アランは口角を上げてみせる。 「食わず嫌い、と言うのもあるでしょうね。この辺りでは食べないものでも、別の場所では常食している……なんて例も色々と有るでしょうから」  そう言うと残してしまった料理を見下ろし、アランは小さな声で言葉を発した。 「体調のみならず、自分の気持ち次第で食欲はなくなりますし」  小さな声であったが、対面に座るマクシムはそれを聞き取った。そのせいか、マクシムは残された料理を一瞥し、数秒の間を置いてから口を開く。
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