尊厳

5/50
前へ
/242ページ
次へ
「もしかして、余計に食欲が無くなりました?」  そう問い掛けると、マクシムは申し訳なさそうに目を伏せた。一方、彼の話を聞いたアランは首を振り、慌てた様子で言葉を発する。 「いえ、食欲が無いのは元々です。話を聞いて食欲が出た訳ではありませんが、その逆でもありません」  アランは、そう返すとマクシムの顔を見た。すると、マクシムは細く息を吐き、それから小さな声で言葉を漏らした。 「そうですか」  言って紅茶を飲み干し、マクシムは空のマグをトレイに置く。その後、彼らの間に会話の無いまま時は過ぎ、二人は食器を片付けて食堂を出た。  昼食を終えた二人は実験練へと戻っていった。そこで、アランはそれまでに溜まった残飯を機械に移し、空になったバケツを洗いながら言葉を漏らす。 「俺が残したところで、変わりは無い……か」  そう呟くと、アランはバケツを逆さまにして水気を切った。適当に水を切ってから、彼は洗い終えたバケツをエレベーター内に置いて食堂へ返す。  その後、マクシムと共に部屋を回り、アランは用意した皿を配り終えたところで資料室へと入った。そして、アラン達は会話用のスペースへ向かい、何時もの様に腰を下ろす。  この時、アランの顔色は優れないままで、それを見たマクシムは心配そうに問い掛けた。
/242ページ

最初のコメントを投稿しよう!

86人が本棚に入れています
本棚に追加