尊厳

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「他者を蔑み、心身共に痛めつける。そんな登場人物には、惨たらしい結末が与えられる。逆に、自らの境遇に文句の一つも言わず、他者を恨みもせずに耐える。そう言った登場人物には、幸せな結末が用意される」  アランは、そこまで話したところで小さく息を吐き出した。 「それは、現実であれば確実なものではない。それでも、強烈な印象で子供は学ぶのでしょう。悪いことをしたら自分に返って来る、今は辛くても何時か幸せになれる……と」  彼の話を聞いたマクシムと言えば、少しの間を置いてから頷いた。そして、アランが直ぐには言葉を続けないと感じたのか、自らの考えを話し始める。 「物語を知ったばかりの子供なら、そうなのでしようね。しかし、年を重ねる毎に、それは綺麗事だと気付かされる。人は、何時から他者を痛めつけることに慣れてしまうのでしょうか?」  マクシムの問いを聞いたアランは眉根を寄せ、何かを言いたそうに唇を動かした。しかし、その何かが声として発せられることはなく、マクシムは細く息を吐いてから言葉を続ける。 「獣の仔でさえ、喧嘩をするうちに何をしたら痛いかを学ぶ。どこまで傷を付けたら命に関わるのかを学ぶ。脳を進化させ、他の生物に比べて頭が良いとされる人間。その人間が、他者の痛みを理解できない筈がありましょうか?」  それを聞いたアランは目を伏せ、両手を強く握りしめた。 「人間の子供が、何も知らずに他者を痛めつけることもありましょう。しかし、それはまだ未熟が故のこと。様々な経験を積んだ大人が、躊躇いなく他者を傷付けられる心理とは、どう言ったものなのでしょうか?」  そう言って首を傾げ、マクシムはアランの返答を待った。しかし、アランは目を伏せたまま口を閉じ、何かを話し出す様子は無かった。この為、マクシムはゆっくりと首を振り、それから新たな話題を口にする。
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