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少しばかり距離が近づいたのだろうか、あんな美人な女の子と。こんな汚れたピンヒールで踏まれてもあきたらない男が。ああ、と顔を押さえる。
彼女がレジュメに向き合うたび、ふんわりとしたブラウスが揺れる。かぎたい、かいでみたい。もっと仲良くなったらかがせて頂けないだろうか……
「お前、授業中いつもどこ見てんのかと思ってたらあの子見てたんだな。いつの間にあんな可愛い子に照準定めてたんだよ」
「なっ……!あのお方は純白の天使だ、手を出したら……」
おれは山田をじっと見つめた。山田はニヤニヤ笑いながら可愛い子だなといい続ける。おいやめろ……!
「やめろ山田、頼むからやめてくれ!お前まであの方に照準定めたらおれは……淡い期待と気持ちの余裕を持てなくなる!本当にストーカーになってしまう!!」
「何てこと言うんだよお前は!」
「そこの二人、ちょっと静かにしてくれるかな」
知らない間に産まれた孫について熱弁していた教授は、おれと山田を苛ついた表情で見つめていた。
山田のジャケットに掴みかかるまで必死に抗議していたおれは、いそいそと手を離す。
ちらと石田さんの方を見ると、携帯をいじっていた。どうやら脱線した話題には興味がないらしい。
その後も教授はカントの話題と孫の話題を何往復かさせ、授業は終わった。
荷物をまとめていると、山田が腕を首に絡めてきた。
「古河、まだ重要な点を聞いてない。何っであんな可愛い女の子とお知り合いになってんだぁ!!」
「あたたたたたた!!!くっ苦しい!!助け、」
腕に力が入ったまま動かない。遠退く意識の中、視界のはしに石田さんが映る。こちらを見て変な顔しながら通りすぎて行く。
彼女に見てもらえるなんて、幸せだ…。
今死んでもいいかもしれない……おれは抵抗をやめた。
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