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「おい、何してる」
少し離れたコンビニで、ぼんやりとアイスを眺めていたおれに声がかかった。
通ううちに顔を覚えてしまったこのしかめっ面の店員は、月島亘というらしい。この間しつこくお金を出さない素振りをしていたらカラーボールを片手に名前を教えてくれた。
「あ、あぁ…」
腕時計は夜の10時半を指しており、はぁとため息をついた。授業には朝の授業以外は出たはずなのだが、放心していてほとんど記憶にない。
「いつもにもまして陰気な顔だな」
「お前に言われたくないよ」
アイスを手にとりレジにいる月島に渡すと、渋々バーコードを通し始めた。この男は本当に店員なのだろうか。
「ねぇ、相談が」
「150円」
「相談が」
月島は聞く気がなさそうだったが、お金を出す素振りを見せないままでいると、眉にシワを寄せたまま何だよと返事が返ってきた。
「好きな女の子が…女の先輩を好きになったみたい」
「……石田さんか……?」
「何で知って…!………あ」
「てめぇバカだろ」
しまった。こいつは元々ストーカー仲間だった。石田さんの人知れない秘密がひとつ漏れてしまったと、頭を深く抱え込んだ。
「他言はしない。ただ………そういう趣向の人間は方向転換させるのは簡単じゃ、」
月島がふと顔をあげ、はっと何かに気付いた顔をした。視線が遠くにいっている。振り返ってみると、正面には壁掛け時計があった。
「上がりだ。せいぜい頑張れよ」
「そんな、殺生な!」
待って!とすがりついたが、財布を引ったくって150円をもぎ取っていった。本当に店員にあるまじき行為だ。カラーボールをぶつけられる側の人間である。
未練がましく睨み付けているのを歯牙にもかけていない様子の月島は、思い出したように、そうだと話を切り出した。
「元々同性しか好きにならない人間と、好きになったのが偶然同性だったという人間がいる。彼女はどちらだろうな」
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