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『第4話』
廃墟の卯月マンションを
向かいの通りから
生気のない目で見つめている男がいた。
見た目は三十代半ばくらいか、
くたびれたスーツに無精ひげを生やしたその男、木本は
そばの電柱を抱きかかえるようにして体を支えた。
“自殺じゃない…殺されたんだ…”
胃が収縮し、胸が焼けるように熱い。
木本はその場に嘔吐した。
ろくに食事を採っていない胃から吸い上げられるのは胃液だけだ。
木本は涙と涎を垂らしながら呻いた。
“すべて…俺のせいだ…”
「ねえ…
ここでやろうよ
立ったままで…ねぇ」
それに応えず、若い女は闇に包まれた非常階段を
ゆっくり上がっていく。
「屋上まで行くの?寝てやるの?
ダンボールとか敷いてる?
虫とかいるといやなんだけど…」
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