死のエクササイズ

11/141
前へ
/141ページ
次へ
        『第4話』  廃墟の卯月マンションを  向かいの通りから  生気のない目で見つめている男がいた。  見た目は三十代半ばくらいか、  くたびれたスーツに無精ひげを生やしたその男、木本は そばの電柱を抱きかかえるようにして体を支えた。 “自殺じゃない…殺されたんだ…”  胃が収縮し、胸が焼けるように熱い。 木本はその場に嘔吐した。  ろくに食事を採っていない胃から吸い上げられるのは胃液だけだ。  木本は涙と涎を垂らしながら呻いた。 “すべて…俺のせいだ…” 「ねえ… ここでやろうよ  立ったままで…ねぇ」 それに応えず、若い女は闇に包まれた非常階段を ゆっくり上がっていく。 「屋上まで行くの?寝てやるの?  ダンボールとか敷いてる?  虫とかいるといやなんだけど…」
/141ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1807人が本棚に入れています
本棚に追加