死のエクササイズ

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 「調べもしないで自殺と決めつけるな」  ミヤモトは何かいいたげな表情を見せたが、  すぐに諦めたような笑みを顔に浮かべた。  「そうでした。すいません」  論争などはこいつがいちばん嫌うことだ。  メンドクサイか。  メンドクサイんだよ。俺は。  卯月マンション。  何年か前にこのあたり一帯の開発計画がもちあがり、  最後の住人が出て行ったのは三年ほど前だ。  だが、諸事情があり、  開発計画は暗礁に乗り上げ、  このビルも放ったらかしにされたまま廃墟となっている。  「ホームレスが住みついたり、  サルみたいなガキどもがラブホがわりに使ったり…  ま、そうなりますわな…  まったく…  為政者もバカなら市民もバカ」  こいつ、自分以外はみんなバカと思ってるんだろう。  もちろん、俺のことも。  自尊心ばかり肥大して他者を軽視する  こんなやつのなんと多いことか。  クソどもだらけだ。  こうやって他者を非難する俺もクソどもの一人か?  俺はミヤモトと同じクソか?  俺がミヤモトを嫌うのは近親憎悪?  ジョーダンじゃない!    「キムラさんもそう思ってるでしょ」  俺はミヤモトを無視して非常階段を昇っていった。       ×      ×      ×  半月が雲間に隠れ、  まだらの影を映していた卯月マンションの壁が  闇に占領された。  どこからか、かすかに音楽が聞こえる。  それは、耳慣れた単純な旋律。  ラジオ体操の曲だ。  ♪チャン…チャカ…チャン…チャン…  いきなり-  ドオオ!  衝撃音が響いた。  一階脇の柵に  人が絡みついたようなシルエットが見える。  あのフリース男が柵に突き刺さっていた。  男は胴体や腿など数箇所が尖った柵に貫かれ、  その首は落下の衝撃でか、  逆向きにねじれていた。  ジルジルと流れ出た赤黒い血が柵を伝い、  地面に広がっていった-      
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