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あのグリーンのフリースを着た男の身元は割れていた。
ヤマベミツロウ。34歳。
人材派遣会社に登録していろんな仕事を転々としている。
最後にやっていたのは警備の仕事だ。
「監視カメラの映像はどうなんだ」
ミヤモトはモニターを見つめたまま溜め息をついた。
「やっぱり何も映ってませんね
時間からみて、カメラ位置をずらしたのは
ヤマベ本人でしょう」
キムラはヤマベが死の前にケータイに残した
動画映像をチェックしていた。
非常階段から屋上へと行く映像が続いている。
「ケータイ動画はどうですか」
「誰も映ってない…ただ…」
屋上での映像が気になっていた。
右へ左へ右へ左へと
何度も回転を繰り返す映像だ。
その直後にヤマベは死んだらしい。
「彼はいったいなにを撮ろうとしたんだ?」
「そんなに気にすることですかね?
死に向かう不安定な心が起こす行動でしょ?
ホトケさん、定職についてなかったし、
このご時世、やっぱ不安ですからね」
「死の前に撮った最後の記録なら、
世間に対して訴えたいこともあるだろう。
なのに、監視カメラを避けたり、
階段とか屋上の風景だけを撮ったり…
まったくわけがわからん。
せめて音声がちゃんと残ってたら
精神状態くらいは推し量れるが…」
「たしかに、わけがわかりませんが、
自殺する人間の心理ならアリでしょ」
「自殺と決め付けるな。
またあそこで死んだんだぞ。
しかもあんな死に方で」
「日本の自殺者は年間三万人以上ですよ。
いわくつきの自殺場所だからこそ、
ここでってのはむしろ自然なことでしょ。
キムラさん、今日はもう終わりにしませんか」
「……」
ミヤモトは諦めてPCに向かい直し、
カチカチとクリックを繰り返した。
「自殺とは何か…」
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