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「ねぇ、田中くん、このセミの餌って、どこにあったっけ?」
「え?あぁ、餌やり忘れてた!机ん中にあるだろ!お前やっといてくれ!」
どうやら、セミの餌やりも、日直の仕事らしい。
好都合だ。
田中くんは、私の左側で黒板を拭いている。
私は彼の死角になるよう、虫かごの左側に、餌の入った袋を置いた。
そしてそっと、虫かごの蓋を少しだけ開ける。
ところが、先程まで大人しかったセミが、突然動き出した。
蓋の少しだけ開いている空間を目掛けて、猛突進してきたのだ。
だが、空間はセミの身体より狭く、抜け出すことはできない。
それでも何回も何回も、蓋に身体をぶつけてくる。
何回も、何回も。
私は急に、なんだか気味が悪くなってしまった。
「た、田中くん!セミが…!」
窮した私は、思わず、隣にいた田中くんに声を掛けた。
彼は手際よく、木の枝を使い、セミをかごに戻す。
安堵したのもつかの間、私は目を疑った。
先程まで、美しい白さを誇っていたセミが、真茶色に濁っていたのだ。
言葉を失った私に、田中くんが囁いた。
「あーぁ、お前が欲を出すから。」
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