知りたかった答え

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「…誰のお墓参り…?」 聞いてもまたはぐらかされる気がしていた。 案の定。 兼森先生は黙ったまま目をそらした。 …やっぱり、話してはくれないよね? 「…妻だよ」 話すんかい。 あ、突っ込んじゃったよ。 ……え?ツマ? 「奥さん?」 …が、いたんだ。 なんだか意味もわからず、胸がチクッて痛んだ。 「正確に言えば、なる予定だった人」 「ならなかった?」 あたしの疑問に答える前に、先生はあたしを日陰の涼しいところへ誘導してくれた。 あたしは適当な岩に腰掛けた。 風が通る。 汗だくだった体は気持ちよく冷やされた。 「籍を入れる前に…」 兼森先生はゆっくりと話し出した。 奥さんになる予定だった人が、籍を入れる前に亡くなった? 先生にそんな悲しい過去があったなんて。 なんだか泣きたい気分だった。 でも先生はちっとも暗い顔をしてなかった。 だからあたしは泣かなかった。 いつもの無愛想とも違う。 なんだか穏やかな顔をしている気がした。 「今日は普通の髪型なんだな。」 「え?」 頭を触って初めて気付いた。 あたし、外巻きじゃない! 今日だけじゃない。 ここ最近、カーラーを巻いた覚えがない。 「一瞬、わからなかった。」 なんとなく気恥ずかしさを感じて、あたしは帽子を深くかぶり直した。 まるですっぴんを見られてるように居心地悪い。 って、あたしはいつでもすっぴんなんだけど。 「どうして話してくれたの?」 話題を変えたくて兼森先生に向けた。 少しの沈黙の後、先生は俯きながらこう返してきた。 「どうしてだろうな」 そのまま背を向ける。 「お前で2人目なんだよ。」 向けられた背中に、不思議と前みたいな冷たさは感じない。 「あの曲を聴きたいって言ってきたのは……」 先生の目線の先には奥さんがいた。 兼森先生にとって、あの曲は本当に大切なモノだったんだね。
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