部活という名の第二話

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また少しの沈黙があったが、先ほどよりは短かった。 「私、天文部に入りたいんです! なんでもします! だから入れてください、お願いします!」 いきなりだったが、慣れ親しんだその光景に、新鮮味を感じなかった。 それは入部希望者が一年の頃にかなり居たからだ。 だが俺が全て断っていたら、そのうち誰も来なくなった。 それはそのはず、俺は輝夜姫のような無理難題の入部試験をしたからだ。 「なんでもねー……。本当になんでもしてくれるの?」 含みのある口調で返す。 「は、はい。私にできることでしたらなんでも!」 「それじゃ、ここに二度と近づかないって言うのはどうかな?」 今回も断る理由を考えるのが面倒くさくて、意地悪なことをお願いした。 どうせ彼女も俺の名誉にあやかるために入部したいのだろう。 そう思ってならなかった。 もう人を信じられなくなっている自分に、なぜか納得している自分が居る。 「えっ?」 驚きに満ちた表情はどこか悲しみにも満ちている。 いつもなら別になんとも思わないのだが、なぜかこの時だけは胸が締め付けられた。 それは相手が女性だからか? 違う。女生徒の入部希望者なんていくらでもいた。 じゃあなぜ、心が苦しい? 「あ、あの……えっと……」 彼女が困るたび、俺の心の臓はきりりと痛む。 酷い言葉を言っておきながら俺はこの子なら良いかな、なんて考えていた。 「あー冗談。うん、冗談だよ、ほんの少し倉橋さんをからかっただけだよ。ごめんね?」 虫が良すぎる。そんなのは分かっている。 だがここで謝っておかなければいけない気がしてならない。 「じょ、冗談ですか。な、なら良かったです」 彼女はほっとしたような顔で微笑んでくれた。 それだけでさきほどまで締め付けられていた胸は一瞬で痛みが消えた。
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