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右腕の腕時計の文字盤をふと見る。
「あと十分」
バスの方を向き、方向幕に間違いがないかを見る。
「21系統 塚沢口経由桜林。オッケー」
そんなことをしている間もお客さんは次々に後部ドアから乗っていく。
愛は大きく伸びをした。
緊張を少しは緩和したいのだ。
彼女は前部ドアから乗り込み、運転台に座る。
エンジンスイッチを回し、エンジンを始動した。
ハンドルにかけたヘッドセットを耳に装着し、イヤホン部分に取り付けられたマイクを微調整し、自分の声が拾いやすい位置を合わせていく。
“マイクのテスト中、マイクのテスト中”
ちょうどよい場所にマイクを設定すると、声が通るのかをチェック。
再び右腕の腕時計の文字盤を見る。
「あと五分」
残り時間の間にバスを進めたいのだがそうも行かず、無駄に車内を見返す。
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