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 すぐさま大人に連絡をしようとしたのだが、生憎僕は携帯電話なる物を持っていない。持っていても使う機会がないだろうと思っていたから持っていない。今時小学生ですら携帯電話を携帯しているというのにだ。  とにかく、僕は大人に連絡をして後の事は任せようと思っていたのだ。近くに知らない人の家があるが、今時電話を貸してくださいなんて不審過ぎて言えない。言う勇気もない。近場の公衆電話で助けを呼ぼうと、この場から離れようと女性に背を向けたら、背後から僕の右手首を掴まれた。 「誰にも何も言うな。お前の家に連れて行け」  顔だけ動かし背後を確認すると、自分の体を引きずって僕の近くまで女性が着ていた。女性には外傷が見られないし、服装も容姿も平々凡々。危ないことをするような人種じゃないと思っていたが、こんな警察に捕まりかねない事を言う人間だったなんて。僕の観察眼は腐っているらしい。  好きなことだけ言って、女性は僕の右手首から手を離した。体力が限界だったのか分からないが、女性は気を失っていた。普通の人なら手首を掴まれた時点で叫んで逃げただろう。それに対して僕は僕より大きい女性を背負って帰路を歩いた。ずるずると女性の足を引きずって歩いてしまうが、僕には女性を運ぶ手段が無いので許して欲しい。こんな場面を他人に見られなくてよかった。人通りの少ない道を歩いていてよかった。これも日頃の行いが良いおかげだろう。まぁ普段何もしていないけどさ。  僕が倒れていた女性を運んだのは、単に僕が女性に魅せられてしまったからではなく。彼女なら糞みたいな日常を壊してくれるんじゃないかと感じたからだ。直感である。女性を背負って歩く時は有頂天で気づかなかったが、僕の感も腐っていることを忘れていた。発酵じゃなくて腐敗だ。
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