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桜が舞散る季節。
まだ、真新しい制服を着た君に呼び出され、この樹の下で出会った。
今より、少し幼さの残る君はすごく緊張していた。
そして、君が言った言葉を今でも覚えている。
「入学式で挨拶をしていた先輩に一目惚れしました。…好きです。付き合ってください。」
真っ赤な顔で、手を差し出してくる君。
私は、そんな君が愛おしくて、可愛く思えて。
君の手を握った。
「よろしくね?」
そう言ったとき、君は笑ってくれた。
そして、ありがとう。
と言って、私を抱き締めた。
「先輩…俺は先輩のことが好きだった。誰よりもかっこよくて、でもたまに見せる優しさがあって…。」
君の声は震えていて、抱き締める力が強くなっていって…。
じんわりと伝わる君の体温が懐かしく思えた。
「…私は…君が好きだったのに。」
ポツリと溢れ落ちた言葉。
本当はわかっていた。
君は私といても、いつも違う方を見ていた。
ちょっとずつ、私から離れていることもわかっていた。
「…君は本当に嘘つきだ…。」
君のシャツを握る手に力が入る。
俯いて唇を噛みしめ涙をこらえた。
けど、こらえきれなかった涙と嗚咽は、地面を濡らしていく。
「…先輩。嘘つきでごめんね…。でも、先輩と過ごしたあの時間は嘘じゃないよ。好きって言ったのも全部嘘じゃない…。」
君が頭を乗せた部分がしっとりと濡れてくる。
あぁ…君も泣いてるんだ…。
けど、私は何も言わなかった。
それから、何分泣いていたのだろうか。
私はそっと君から離れた。
そろそろ、覚悟を決めなくちゃ。
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