入学式・桜・チョコ

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どれぐらいの時間、私は寝ていたのだろう。 どこからか香ってくる甘い匂いと誰かに肩を揺すられ、私は目を覚ました。 …なにかしら、この甘い匂い。 それに、誰かいるの? 目を開けると、視界に飛び込んで来たのは、先ほどまで眺めていた桜の木と私を覗き込んでいる男の子だった。 「…誰?」 「あ、起きた?」 少年は、手に持っていたものを口に入れると、私と向き合った。 「ねぇ、新入生だよね?」 「…そうだけど…。」 私が新入生と言ったとたんに、少年は満面の笑みになった。 そして、私の手を握ると手を上下に大きくふった。 なんなのよ…この人。 「俺もね、新入生なんだ!あ、何組なの?」 少年が満面の笑みで聞いてくる。 「え、A組だけど…。」 「本当?俺もA組なんだ!これからよろしくね!あ、チョコあげるね。じゃあ、俺は行くから!」 彼は握っていた手を離すと、ポケットからたくさんのチョコを取り出し、私の手を取り、握らせてきた。 「…またな。」 さっきまでの無邪気な笑顔とは違って、優しい笑みを浮かべ、彼は走っていった。 私は彼が走っていった方向をしばらく見ていた。 ふと手元を見ると、彼がくれたチョコが目に入った。 「…甘い…。」 もらったチョコを口に入れるとチョコ特有の甘ったるい味が口に広がった。 「…高校生活が楽しみで仕方ないじゃない。」 あれほどつまらないと思っていた高校生活が楽しみになった。 私は、チョコを見て微笑むと、彼が歩いて行った方向へとゆっくりと足を進めた。 これからの生活に胸を高鳴らせて。 end
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