■いつも、君を■

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「えー…要するに、ここをこう通分すると、Xが…」 苦手な数学の時間。 先生の言葉なんて、耳に入ってこない。 視線の先には、いつも君がいる。 私の、斜め前の斜め前の席。 このほどよい距離が、君を見つめるのにちょうどいい。 君をこんなに好きになったのは、去年の冬のこと。 普段運動をしない私にとったら、その日のマラソン大会は憂鬱で仕方なかった。 「よーいドンっ!」 掛け声と共に、みんないっせいに走り出す。 私は最下位グループの先頭ぐらい。 このマラソンは、この辺りで一番大きい公園を2周する。 ちょうど、1周を走り終えたときぐらい。 急にフラッと目まいがした。 (どうして…こんなときに) 私は生まれつき体が弱く、貧血をよく起こす。 後ろの方にいた人たちは、自分のことに精一杯で私がふらついていることに気づかず、どんどん私を追い越して行った。 あっという間に、最下位。 どんどん前の人の背中も遠ざかっていって。 私はついに倒れた。 つめたい、アスファルトの感触。 自分の体を恨んだ。 (まって…置いていかないで…) 声を出すこともできずに、ポタッと涙がこぼれた。 …薄れ行く意識の中、温かい感触が伝わってきた。 「大…夫か!?今…連れて…安心し…」 そんな声が、聞こえた気がする。
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