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「えー…要するに、ここをこう通分すると、Xが…」
苦手な数学の時間。
先生の言葉なんて、耳に入ってこない。
視線の先には、いつも君がいる。
私の、斜め前の斜め前の席。
このほどよい距離が、君を見つめるのにちょうどいい。
君をこんなに好きになったのは、去年の冬のこと。
普段運動をしない私にとったら、その日のマラソン大会は憂鬱で仕方なかった。
「よーいドンっ!」
掛け声と共に、みんないっせいに走り出す。
私は最下位グループの先頭ぐらい。
このマラソンは、この辺りで一番大きい公園を2周する。
ちょうど、1周を走り終えたときぐらい。
急にフラッと目まいがした。
(どうして…こんなときに)
私は生まれつき体が弱く、貧血をよく起こす。
後ろの方にいた人たちは、自分のことに精一杯で私がふらついていることに気づかず、どんどん私を追い越して行った。
あっという間に、最下位。
どんどん前の人の背中も遠ざかっていって。
私はついに倒れた。
つめたい、アスファルトの感触。
自分の体を恨んだ。
(まって…置いていかないで…)
声を出すこともできずに、ポタッと涙がこぼれた。
…薄れ行く意識の中、温かい感触が伝わってきた。
「大…夫か!?今…連れて…安心し…」
そんな声が、聞こえた気がする。
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