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「はぁ......はぁ......ひぃ......」
膝下まで伸びる白衣を盛大になびかせ、一人の男が必死の形相で廊下を駆け抜けていく。
前方に見える仰々しい飾りが施された扉を開け放ち、中の部屋へとダイブする。
部屋は奥まった造りで、一番奥の壁には大型のスクリーン。
そしてそのスクリーンに映し出されている映像に対し、数名の同じ白衣を着た者たちが真剣な面持ちで視線を送っている。
その中で一人、一番後ろから映像を見ていた女性が、飛び込んできた男に気付くと苦笑しつつ言葉を飛ばす。
「やっと来たのかいルクシード先生、会議も大事だがなにもこんな日に入れなくてもな」
息が絶え絶えとなり両膝に手を着いて全身で呼吸を整えるルクシードと呼ばれる男は、捻り出すようにその女性からの言葉に返答を送る。
「ぜぇ......はぁ......仕方ないんですよ、自分の受け持つ生徒の卒業試験なんて、あっちからしたら完全にこっちの私情なんですから」
「それもそうだな。 ちなみに休んでる暇はないぞ、今残ってるのは数名、今回の試験ももう終盤戦ってところか」
女性はそう言いつつ視線を男から外し、後方のスクリーンへと移す。
その動作につられるように、ルクシードも前方のスクリーンに視線を向けると慌てた様子で質問する。
「えっと、アクト君と......ウェイン君は......」
「あんたんとこの生徒はまだ残ってるみたいだね。どっちも序盤から大技食らうわなんだで見てるこっちはヒヤヒヤするよ。 あ、ちょうど可愛い生徒が映ってるじゃないか」
お世辞にも綺麗とは言い難い荒く映し出された映像には、ドーム状の大きな洞窟の中央に、簡素な城が建つ閉鎖空間の中で、炎や氷、剣撃による火花があちこちで瞬いていた。
その中の一つに映像はズームで近づき、一人の少年の動向を追い始めた。
「あ! アクト君!」
少年が映されるやいなや、ルクシードは前のめりになりつつ映像を食い入るように見つめた。
アクトと呼ばれる少年は、軽い足取りで城の外壁を飛ぶように登ると、拓けたテラスに着地する。
そこでは既に待ち伏せていたのか、別の少年が火球の魔法を放ち、アクトは正面からその火球を受け、瞬時爆風が画面いっぱいに映し出される。
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