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その日は、やけに雲の流れが速いと感じた。
少しだけ気まぐれでいつもとは違う通学路を通って帰った。中学3年の冬だった。
雪でも降るのだろうか。
そんな気がした。
公園でも寄って帰ろうか。
そんなことを思った矢先、母から一通のメールが届いた。
「あんた、カエちゃんのお葬式、途中で抜け出したでしょう?今日でも少し顔を出して来なさい。引っ越したらもう会えなくなるのよ?」
「会えなくなる、か…。」
会えなくなる。いや、会えなくなった。
僕は来年から親の都合により他県へと引っ越すことになった。産まれてからずっと見てきたこの街の風景ともあと少しでさよならだ。だから今日は少し遠回りしてでも思いでの場所を見ていきたかったのだ。
そうでなくとも。
彼女とはもう会えないのだが。
彼女、ササキベ カエは二ヶ月前、この世を去った。
この僕の目の前で。
なのに僕はその事を全く覚えていない。
警察で色々と聞かれたけど、僕はひたすら、「わからない」「覚えていない」「何も知らない」
そう 答えることしか出来なかった。
皆はショックで覚えていないのだろうと言っていた。人間の脳というのは本当に便利に出来ている。僕とササキベ
カエの関係はいわゆる幼馴染みである。家が近く、幼少の頃からよく遊んだものだった。
僕は勿論カエのことが好きだった。
ただの友達として。
そしてカエも僕の事を友達以外の何者でも無いと思っていただろう。
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