ネガイ

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コンッ コンッ コンッ 聞き慣れたドアのノック音と共に、菜々子さんが入ってきた 「あらっ巴くん!今日早いじゃない!」 僕は軽く会釈をした 「今日は大学が早く終わったんですって」 実咲が林檎をほうばりながら言った 「いつも来てくれてありがとう。巴くんがいてくれて本当に心強いわ」 菜々子さんはそう言ってニコッと笑うと、お茶を入れはじめた 菜々子さんは実咲の年の離れた姉で、両親がいない実咲にとって、母親に近い存在だった 13歳離れた妹を一人で養っていくのは、かなりの負担だったはず それでも菜々子さんは、嫌な顔一つせずに、実咲を育ててきた 「巴くんももう大学生かぁ。初めて会った時はまだ小学生だったのにね」 菜々子さんは僕にお茶を差出しながらしみじみと言った 「ありがとうございます」 僕はそう言ってお茶をすすった 僕と実咲は小学生からの仲で、当日は菜々子さんにも沢山お世話になった 僕が実咲を家まで送ると、いつも笑顔で僕を迎えてくれた そんな菜々子さんに僕も大変なついていたし、何より3人で過ごす時間が楽しくて仕方がなかった 「私ちょっと先生の所行って来るわね」 菜々子さんはカーディガンをはおり、病室を出ていった 「あのっ!!」 僕はすかさず菜々子さんの後を追った 「あの、実咲の記憶はいつ戻るんでしょうか」 菜々子さんはうつむいた 「さぁ。先生も分からないとおっしゃっているし・・・・明日かもしれないし、何十年後かもしれない」 「・・・そうですか」 僕は小さくため息をつきながら言った 「でもね、実咲は絶対巴くんのことを思い出すわ。そんな気がするの」 菜々子さんはパッと顔を上げて 「だから、今は信じて待ちましょう。きっと大丈夫よ」 と言うと、ニコッと笑って行ってしまった
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