『よろしければ、どうぞ』

１

『ちっ…。タイミング悪いわ、マジで』

数分前に電話で彼女にフラれ、少し苛々しながらも仕事帰りであることを思い出し、帰ろうとした矢先の…雨。

ついてないのは生憎、傘を持ち合わせていない事とここがあまりよく知っている場所じゃない事だ。

外回りを終え、そのままの足で家路に着く予定だったので、いつもとは違う帰路。

だいたいの場所は把握しているつもりだが、目の前に見える景色に傘を買えそうなコンビニは見当たらない。

『止みそうにねぇよな……』

咄嗟に雨宿りが出来そうな店の前に来たが、そこから動く事も出来ない。

下ろされているシャッターにもたれ掛かり、そっと溜め息を吐いた。