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『おはぎー、おはぎー。どこだー?』 雨の事も少し忘れるくらい黒猫とじゃれるのに夢中になっていたら、雨の中から誰かを探す凜とした声が聴こえてきた。 ふと辺りを見渡せば、傘をさしながら近くの塀や溝を覗き込む男性が一人。 『おはぎー?風邪引くぞ~?』 あの様子からしてペットを探している感じだが、この雨の中じゃずぶ濡れは間違いないだろう。 そんな事を他人事のように思っていれば、ふと手元の猫が先程とは違う何かに応えるかのような鳴き声を上げた。 それはまるでここにいるよとでも言うように…… 『あっ、おはぎ。そんな所にいたのか』 少し遠くにいたはずの男性には雨の中でも、その黒猫の鳴き声が聞こえたらしい。 ハッと振り返ると、やや駆け足でこちらに近付いてきた。 『さぁ、帰るぞ。お前のご飯がお待ちかねだぞ?』 男性なのは声の感じからして分かっていたが、近付いてきたその人は男性というよりはまだ青年というような整った顔立ちの人だった。 足元にいる黒猫をその人が抱き上げると、嬉しそうに身を寄せる猫に少しだけ苦笑してしまう。 それに気付いた青年が俺を見上げて首を傾げた。 『何かうちの猫がしましたか?』 それはあくまでも単純な疑問だったに違いない。 けれど、この状況で最初に彼と話した会話がこれだったなんて、後から考えれば本当に奇妙な出会いだ。
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