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「おい」  声をかけると、たくさんの目がこちらを向く。それを無視しながら榊さんと目をあわせる。 「今から校内を案内するから――」 「えーっ! 坂本が案内するの?!」 「坂本くんって、意外と積極的ね」 「やっだー! 変なことしない? 大丈夫?」 「ストーップ!」  口々に好き勝手言うクラスメイトの言葉を遮るようにして、声をあげる。 「まず、俺はナカセンに頼まれたから案内するのであって、恋愛感情はない。変なことをする気もない。……てか、変なことってなんだよ」 「決まってんじゃなーい。例えばー……」 「よし、行くぞ」 「えっ……」 「あ、ちょっと! 坂本!」  これ以上話していたら時間がなくなりそうだ。  俺は榊さんの腕をつかむと、そのまま教室から飛び出した。後ろから俺と榊さんの名前を呼ぶ声が聞こえた気がしたが、俺は無視して走……。 「おい待て。走る必要はあるのか?」  ごもっともだ。走る意味などない。なんで俺は走ってたんだ。  そう思いながら止まり、腕をつかんでいたことに気づいて、慌てて手を離した。彼女が少し顔をしかめて腕をさするのを見ると、少しだけ申し訳なくなる。 「ごめんな」  俺が謝ると少し驚いたような表情で榊さんは俺を見た。が、すぐにさっきまでと同じように微笑む。 「大丈夫だ、気にするな。それより、時間がないのだろう?」 「そうだな。まずこの階だが、四階は二年の教室しかない。一番上の五階は一年、三階は三年の教室だけ。屋上は普段は鍵がかかってるから上がれない」  そう説明しながら、二階に行くために階段を下り始めた。後ろから榊さんの足音が静かについてくる。  沈黙。  すれ違う人々は榊さんを見てヒソヒソと話している。なんの遠慮もない好奇の視線。俺はなんとなく居心地が悪くなり、自然と早歩きになった。
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