3人が本棚に入れています
本棚に追加
リビングに入ると俺と同じ高校の制服を着て赤いリボンを胸元につけた空と、普段は仕事でいない、茶色がかった黒髪をひとつにまとめた母さんがいた。俺に気づいた母さんは、ニコリと微笑んだ。
「おはよう、大地」
「おはよう、母さん。今日は仕事は?」
席に着きながら訊くと、母さんは朝食が乗った皿を俺の前に置きながら、口を開いた。
「今日は休みよ。だから今朝は、空と一緒に朝食を作ったの。と言っても、私が作ったのは野菜サラダだけだけど」
ちぎっただけね、なんて母さんは笑った。実を言えば母さんは大の料理音痴で、今まで焼いた食べ物を焦がさなかったことはない。ついでに卵焼きの砂糖を塩と間違える、なんてもう王道過ぎるミスを何度もやらかしていたりする。おまけで卵のからが入っていたこともあった。だからちぎっただけの野菜サラダほど、母さんの料理で安全なものはない。
皿を見るとドレッシングのかかった野菜サラダとトーストと、目玉焼きが乗っていた。俺は空お手製のイチゴジャムが入った瓶の隣に並んでいるバターをとって、トーストにぬる。そこに目玉焼きと野菜サラダを乗せて、トーストを半分に折る。サンドイッチの出来上がりだ。
「母さんが野菜サラダということは、目玉焼きは空か。俺の目玉焼きは何熟だ?」
「ちゃんと完熟にしといたよ」 その答えに安心し、サンドイッチを頬張る。うん、旨い。
「それにしても、何で半熟じゃダメなの? トロトロで美味しいのに」
空の質問に、俺は最後の一口を食べながら答える。
「俺はトロトロよりもこっちの方が好きなんだ。……ごちそうさま。ほら、行くぞ」
「りょーかい。ごちそうさま。お母さん、行ってくるね」
「いってらっしゃい」
いつも通り、同時に出る俺たちに、母さんは微笑みを浮かべながら手を振っていた。
最初のコメントを投稿しよう!