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「ふぁ……」
教室の中。時計はSHRの始まる五分前を指している。二年五組の教室は生徒で賑わっていた。
宿題をやる者。読書する者。クラスメイトと話す者。教室に走り込んでくる者。そんな中、俺は椅子に座り、手で隠すことも忘れて大きな欠伸をしていた。とそこに、バシンッ! と思いきり誰かに背中を叩かれた。咳き込みながら後ろを振り向く。そこには、小柄な少女が立っていた。
栗毛色の肩までのストレートな髪、茶色い大きな瞳。設楽未月(したらみづき)は髪を揺らしながら面白そうに笑っていた。そんな彼女を睨む。
「お前……」
「何眠たそうにしてるのかな、と思って」
「眠たそうにしてるのがわかったんなら叩くなよ」
「えー。いいじゃない、別に」
「設楽。叩くのは別に良いけど、加減があるんじゃないかな」
一人の少年が、俺たちの会話の間に入るようにして、やんわりと言ってきた。ふわりとした黒髪。中性的で整った顔立ちに、何を考えているのかよくわからない笑みを称えている。いわゆるミステリアスな美少年という言葉がしっくりくる彼は、高橋依織という。その後ろから赤色がかった茶色の髪が特徴的な、見るからに賑やかそうな少年、若杉香月(わかすぎかづき)が、ニヤニヤしながら現れた。
「そうだぞ、未月。お前、ただでさえ怪力なんだから、そんなに強く叩いちまったら大地の背骨が折れてるかもだぞ」
設楽がムッとしたように若杉を睨む。
「怪力って何よ! この、サルっ!」
「サルじゃねぇし、ゴリラ」
「ゴリ……ッ!? かづ、あんたねぇ……!!」
「ほら、席着けー。設楽も若杉も、イチャついてないでとっとと席着けよ」
「イチャついてないです!」
「イチャついてません!」
教室に入ってきた担任の中西先生、通称ナカセンは言い争っている二人を見るなり、面倒臭そうに言った。その言葉に対して、二人は息ピッタリに返す。それに対してもやはり面倒臭そうに、じゃあ席に着け、と言うナカセンに、二人は静かに自分の席へ戻っていく。
全員が席に着くのを確認すると、ナカセンは再び口を開いた。
「突然だが、転校生を紹介する」
ナカセンの一言に、教室内が再びざわつき始める。当たり前だ。今は十月、しかも最後の方。季節外れにもほどがある。
「おーい、静にしろー。……転校生、中に入れ」
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