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ガラリと静かにドアが開き、中に人が入ってくる。瞬間、教室内にいた者全員が息を飲むのがわかった。
すらりと伸びた真っ白な手足。バランスのとれた身体つき。真っ黒で、少し癖のある腰まで流れるようにして広がった黒髪は、まるで新月の日の夜空そのものだ。そんな幻想的なものの中に、痛々しげな右目の眼帯が特徴的だった。
ビスクドールみたいだな、と思った。
病的なほど白い肌も、現実場馴れした美しさもそうだが、動きにまったく生気がないことが、どこか無機質な、人形のような感じを起こさせる原因となっているのだ。
何気なく転校生である少女と目があった。瞬間。
ゾワ……ッ!
鳥肌が身体中を駆け巡る。深く暗い無表情な、淀みによどんだ瞳に吸い込まれそうになる、どこか覚えのある感覚。
そう感じたとき、ふと何かが頭の中に何かが落ちてきた。そしてああ、と思い出す。
この少女はあの夢の中で泣いていた、幼い女の子だ。
少女は俺から目をそらすと、その形のよい口を開いた。
「榊奏(さかきかなで)です。よろしくお願いします」
少女、榊さんは微笑むと、軽く礼をした。
それは人形劇の始まりを告げる、操り人形の礼のようにも見えた。
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