12月

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 この寒い夜での、父の行動には理由がある。  始まりは夕食後の父と母の口論。詳しい内容は割愛するが、母の主張としては父が家事をほとんどしていない、ということだった。それに対し父は、「そんなことはない。俺はきちんとしている。それだけ家事をやれと言うなら、今からやってやる」と反論した。  そこで、木の枝を切るという作業を行うことになったのだ。何故そうなるんだ、と疑問を感じたが、きっと家族の主である“父”としての威厳、意地――そのようなものが絡んでいるのだろう。  先程から述べている『木の枝』というのは、地面から伸びている“木”からは切り離された枝である。木の枝を切る作業、とはその切り離された枝を短く切り分けることであり、加えてそれらをゴミ袋に入れなければならなかった。  さて、そこで僕もその作業を手伝うことになった。というのも元々それは僕の仕事だったからだ。年の終わりでする大掃除の時にしよう、と思い放ったらかしにしていたのである。  父は木の枝を切り分け、僕はそれをゴミ袋へと突っ込んでいった。無言の作業。あまり話すことはなかった。 「イテッ」  人指し指の腹に鋭い痛みが走った。どうやら軍手を突き抜けて、木の枝の棘が刺さったようだ。 「この枝は結構棘があるみたいだから気を付けなよ」  父が僕に言葉を投げ掛けた。そこからは再び無言の作業。ただただ枝を拾いゴミ袋に入れ、また枝を拾いゴミ袋に入れ…………。これの繰り返しだった。  でも不思議と辛くはなかった。数日ぶりの新鮮な外気。最近の生活とは違った行動。そして、クリスマスイブの夜。これらが僕に奇妙な興奮を覚えさせたからかもしれない。  開始から40分ほどで作業は終了した。枝を拾うという作業のせいで、僕は腰が痛くなっていたので、うーんと背中を反らした。すると見えたのは、星たちがちらほら輝く夜空に浮かぶ満月。  今年はホワイトクリスマスになると言われていたが、結局雪は降らなかった。その事を少し残念に感じていたけれど、綺麗な満月のおかげでそんな気持ちは何処かへ行ってしまった。  だってもし雪が降っていたら、空が曇っていただろうし。
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