ゆきの訪問者

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「ちょ、ユキも詩代も止めろって…!」  笑顔でバチバチと火花を散らす二人の間に慌てて割り込む。――このままだと、此方も巻き込まれる。そう思ったのだが。 「「よりは黙ってて」」  有無を言わせない鋭い二対の視線に突き刺されて、仕方なく引き下がった。 「…はい……」 「…それより。こんな真っ昼間っから雪女さんは何のご用かしら? 貴方がお暇でも、こちとら先方の都合には付き合いきれませんのよ? 用がないのならお引き取り願えますかしら?」  完璧なまでのにこやかな笑顔で、手のひらを上に玄関を指し示した詩代に、ムッとユキは口をへの字に曲げた。 「私は“このお宅"には用はありませんわ。私が用があるのはこの……」 そうしてユキに腕を掴まれベッタリとくっつかれる。 「うわっ…」 「諏持河(すじがわの)頼重(よりしげ)だけよ!!」 ************* 「…より、あれは何だ?」 「料理対決~……だとさ」  げんなりと応えた頼重に、彼の幼なじみは小さく苦笑した。 「…そうか。大変だな、モテる男は」 「…………。…いゃ、お前に言われてもなぁ……」  隣に立つ彼を見上げる。整った顔立ちで長身。おまけにスタイル抜群。さらに加えて文武両道で毎日女子からの熱い視線が集まり、バレンタインの日には靴箱が閉まらなくなっている程の人気振り。  ……そんな人間にモテて大変などと言われても正直まったく確実に説得力がない。 更に言葉を付け足すなら、彼は優しいし気も利く。――が。勿体無さすぎることに、彼は素晴らしく鈍感である。  バレンタインにあんなにラブレターを貰っているにも関わらず。毎日のように女子に騒がれているにも関わらず。――彼は彼女らの性的好意に全くながら気が付いていない。彼の頭の中では、好き=友情、付き合って=何処かの場所に、という風に変換されているらしい。ラブレターを読みながら、手紙では何処へも付き合えないのだが…? …と呟いているのもその為だ。 ――残念すぎる。 「…だよなぁ~。天然タラシのすえに言われてもなぁ~…? 小さくて女の子みたいなのに傷つくよな~? より?」 「……お前の言葉に一番傷ついたよ。どっから湧いて出た、安倍晴明」  怒りに震える声は、突如 両肩にのしりと乗っかった重さに向けられる。 (――背の低さとか童顔とか一番気にしてることを)
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