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内心でぼやいていると、肩にかかっていた重さが消え、代わりにニヤニヤ笑いを浮かべた顔が前へと回ってきた。
彼は組んでいた腕をほどくと右手を顎に当てて一層笑みを深めた。
「自然現象」
「…んなわけあるか」
「より、身長伸びてんのか~? カルシウムをきちんと採らないと大きくならな」
「人の話を聞け」
「いぞ~? ましてや成長期なんだからよぉ…」
よりの恨めしげな声もどこ吹く風。珍しいモノを観察するように彼は愉しげにジロジロと見続けていた。
――そのとき不意に彼の手が伸びてきて、その手に不穏なものを感じすえの背後に逃げ込んだ。
「はははっ。やっぱり縮んだのか?」
「縮んでない!! これから伸びるんだ!!」
――やはりあの手は直感した通り、よりの身長確認だったようだ。
(……危ね)
縮んではないと思うが、伸び悩んでいる自分としては伸びてないことを指摘されるのはかなりの屈辱だ。――測られなくて良かった。
――今や世間一般ではなかなかお目にかかることもなく、過去の存在とされているような気さえする『陰陽師』。しかし彼はそんな裏家業を易々と、そして確実にこなす希代の人物である。本来であれば尊敬の眼差しで見て然るべきの相手なのだ。が……。…飄々とした態度と食えない性格、妙に馴れ馴れしいくせに普段は適当極まりない人物のせいか、どうしても胡散臭げに見てしまうのである。
「……それで。何か用かよ、晴明?」
気を取り直してすえの背から顔だけ覗かせ尋ねると、彼は仕事中にしか見せないような厳しい目つきで、ニヤニヤ笑いを潜めて眉を寄せた
「……いや、な。ここに乱入する為の道中でやたら強いイヤ~な気を感じたんでな。急いで来たんだよ」
「…どっちにせよ妨害しにくるつもりだったんじゃねぇか……」
呆れて溜め息が零れる、が今はそれどころではない。
「嫌な気、って…? すえも気づいてたのか?」
嫌な気。つまり悪いことの起こる前兆や原因のことなのだが、それならば力のある すえも気づいていたのだろうか。
そう思い腕にしがみついたまま見上げると、予想に反して彼は首を横に振った。
「…変だな。こんな強いなら、すえが分からないはずがないんだが……」
不審気に眉を寄せる晴明に目を向ける。
「そんなに強いのか?」
「……ん…? あぁ、結構な」
あのタヌキのように人を化かす晴明が渋い表情をしている。――これは、かなり強いと受け取って良いだろう。
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